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この記事はスマートフォン向けアプリゲーム『あんさんぶるスターズ‼︎』にて実装されている楽曲『Le temps des fleurs』のMVを舞台芸術の視点からざっくり考察したものです。
ゲームの規約では、MVのスクリーンショットの公開はOKとの記載がありますので実機のスクリーンショットを元に解説を行います。
※私がこちらのイベントの衣装を2人分所持していないため、異なる衣装(返礼祭衣装)でのスクリーンショットです。ご了承ください。YouTube公式チャンネルに正規の衣装の映像がありますので、気になる方はそちらをどうぞ。
コアなファンの方はお察しかと思いますが、リクエストアワー7にてお便りを送りつけた私です(アプリ内のプレイヤー名義で送ったので別名義の同一人物です)。せっかくなので文字起こししました。
『Le temps des fleurs』とは
2023年8月15日から開催されたイベント『Remplacer*語る人形とレゾンデートル』にて実装された、Valkyrieという2人組ユニットの楽曲です。
パリの情景を描きつつも全て日本語の歌詞のみで作詞されたこの楽曲は、作詞担当の松井洋平さん曰く日本文化とフランス文化が相互に焦がれる様を描いた「芸術同士のラブソング」なのだとか(リクエストアワー7より簡単に意訳)。是非フルで聴いてください。
イベントシナリオ的には、Valkyrieが披露した歌劇ということになっています。
そのためこちらのMVは、アイドルのライブというよりはまさに舞台上で繰り広げられる総合芸術の様相です。実際の舞台でも見られる造形や演出、現実で再現したらどうなるのか、ゲームの作り的にはどうなっているのかというざっくりとした考察をしていきます。
緞帳
- 横方向に引いて幕を開けるオペラカーテンの緞帳。引き割り緞帳とも。日本では歌舞伎で見られる。
- 曲名(歌劇名)が投影もしくはレーザー照射の演出だが、文字の輪郭のボケ具合と緞帳が開くと同時に文字が消えるのはリアルなこだわりと、映像作品ならではの演出のしやすさでは。映像的には緞帳部分に文字のテクスチャが乗っていて、緞帳の端と一緒に消えていく仕組みではないでしょうか。
- スモークが緞帳から漏れてこないのも映像ならでは。現実ではスモークを焚いていると緞帳の隙間から漏れてきたり、開くと同時に舞台から客席へ流れてきます。ちなみにスモークはドライアイスなのでひんやりします。
舞台装置「書き割り」
- 背景の書き割り。古典的な舞台転換の手法で、大きな板に描いた背景を移動させることで場面展開を行う。現代では映像投影や巨大な装置そのものを動かすことで背景を変えることが多いが、昔は描いた背景を何枚も用意し、場面に合わせて板を移動させることで転換を行なっていた。
- 映像的には3Dからより2Dに近い形にすることで、データサイズを抑える効果も得られているものと思われる。ちなみにゲームでも背景を2Dで立体的に描いて配置することを書き割りといったりするので、意外と言葉はそのままだったりする。
- 書き割りの移動とカメラ角度によって序盤のセーヌ川だけでも街灯とその後ろで異なるパーツになっているのがわかる(背景をよく見ると街頭の後ろに影がある。)
- 続いてはセーヌ川から次の背景へ転換のシーン。これだけ大きいものを移動させると本来は大きな音がしそうではある。曲に合わせているのでそこそこなスピードで移動していることもわかる。
- 大型の移動する舞台装置は現実では不具合が起きやすく、人力で動かしていたりタイミングが間に合わない場合もある。今はなきIHIステージアラウンド東京は360度座席が回転する仕組みだったが、うまく動作しない場合は動かなかったり指定の位置で止まらないトラブルが発生したり、東京ディズニーランドで運営中のショー(2024年9月現在)の『ミッキーのマジカルミュージックワールド』でも大掛かりな転換が多くシアター開業当初はシステム調整に入ることが多々ありました(伝わる人にだけ伝わる。多分装置が正しく動作しなかったのだと思います。30分もない舞台で爆速で大掛かりな装置が転換されていくので)。恐らくあれくらいは大掛かりに動いているのではないでしょうか。
- 書き割りの1番後ろは恐らく超高発光のLEDモニターと思われる(書き割りのシルエットがくっきりしており後ろから光が当たっていることと、途中から映像が映されるため)
- このシーンで柱が書き割りのパーツで独立して動いていることもわかる。
- ここから映像背景を経て凱旋門へ背景転換。書き割りより手前の建物の窓灯りはシンプルにライティングか。
ライティング
サスペンションライト
- このMVではサスペンションサイト(舞台上部のバトンから吊るされているスポットライト。上からピンポイントで当たっている丸い光はこれ)を瞬間的に使い、人物を際立たせているシーンが多い。上部から光を当てることで立体感が出るかつ、現実的には斜め2方向から互うような当て方はより立体感が出る手法。
- サスペンションライトのみを当てると正面から見た際、本来は顔になどに影が落ちる。そのため現実では正面からも光を当てたりするがシルエットを見ると正面からの光はあまり強くなさそう。
- あんスタはキャラモデル自体が明るさを持っているようなので、モデルの明るさもシーンとライティングに合わせて操作してキャラをより立体的に見せているものと思われます。細かい。
- キャラモデル自体が明るさを持っているという考えは、光るスバルなどの発光する衣装が暗いシーンでもシルエット貫通をしてしまうためライティング等の演出とは別でモデルと衣装自体が明るさを持っているのではないか、シーンによって明るさを変えることでキャラをあえて見せにくくしたり、本来なら暗いはずの舞台でもしっかりキャラが見える演出があるから(UNDYING HOLY LOVEのALKALOID、Ringing evil phoneの創の後ろから急に現れたように見える凛月など)です。ちなみにレゾンデートルの衣装は発光はしませんがパンツの膝下にラメ加工があり、バレエのような足捌きの振り付けで品よく光を反射しています。
地明かり
- Aメロはほぼ地明かり(舞台全体を明るくするフラットなライト)のような控えめなライティング。少々セピアのような印象とともに、自然光のような雰囲気に仕上がっている。
- 背景の曇り空とエッフェル塔の書き割りともマッチしており、まさに劇の作り方。舞台のライトって派手なイメージがあると思いますが、室内や日常風景を描く際はこういった控えめなライティングを行うこともあります。メリハリってやつですね。
LEDモニター
- Cメロは影の伸び方から背後のモニターからの光源と思われる。衣装シルエットが最も映えるユニットなので、この演出は非常に活きる。
- 現実であればここまで人物の顔や衣装はっきり見えないはずが、映像なのでその点がカバーできている(多分3Dモデル自体が明るさを持っているせいかと思います。他にも舞台上とは異なる映像内での光源があるのかも)。現実的な演出を用いつつも、実は現実では難しいことをできる点が映像の強さです。
- 現実的には映像は幕に対して投影を行うのが一般的ですが、これはアイドルのライブ会場がベースとなっていると思うのでそのままLEDを持ってきていると考える方があんスタ的には自然かと思います。
明るさのニュアンス
- サビのキメの部分で一気に明るくしている。全体的な華やかさ、明るさを求めるシーンはライト全灯な感じだけどニュアンスが柔らかいのがこのMVの特徴でもあると思います。広めのライトのシルエットが何本も2人の後ろに見えており、光の中にいるというよりは、明るさと軽やかさを背景にしていることが際立つ演出。背景の書き割りに当たる光もしっかり変えられており、パリの街が舞台である重要性をより感じられます。
- やはりキャラ自体の明るさも明るくなっているのか、下からあおる角度のカメラでもキャラの顔に影が落ちていない。
照明装置
- 間違っていなければ、わかりやすく照明装置が映っているカットはこの3カットのみ。
- 舞台上の装置を見せない=舞台裏を見せないという世界観作りが垣間見えます。ライブステージでのMVだと音楽ライブのステージライトは隠されないことが多いので、その点だけ見ると逆をいっていますね。演劇では舞台上の照明装置は隠したり目立たないように工夫することも多いので、劇という側面から見ると至極自然ではあります。
舞台装置 プロセニアムアーチ
- 額縁のように背景のパリの街並みを囲っている部分。パリのオペラ座等で採用されている。
- 元々舞台演劇には”舞台”と”客席”を区切るようなものはなく、発展していく上で考案された舞台と客席を区切り、世界を分ける構造物です。娯楽や芸術は大体が神への捧げものだったり文化伝承のためのものが発展しているので、舞台も例に漏れず観客との距離は近くエンタメではないところから始まっています。
- ここではパリの街と手前の2人を区切ることで、より強くパリでの一幕を演出していると考えられる。
- この曲では中央上部に曲名と男女を模したレリーフが設置されているのでよく見て。
舞台装置 せりあがり
- 舞台後方1/4くらいがせりあがる。舞台装置としてはかなり一般的なので説明不要かと思いますが一応。舞台の一部が昇降する舞台機構。舞台下から跳ね上げで登場する演出もあれば、このように舞台の一部を上げることも可能。段差が生まれることで空間を分けることができ、奥行きや上下の空間の差を作り出すことができます。
- ここではプロセニアムアーチの下部を隠しつつ奥と手前を分けることで、奥のパリにいるみか、それに想いを馳せる手前の宗というような構図が成立しているかと。舞台が上がっているかつこの背景から、今いるのはセーヌ川のどこかの橋の上かもしれないという場所すらも想起させる。
- ちなみにせりあがりを動かすにもいくつか方式があるが、速度が速いので多分すごくいいやつ使ってる。音楽ライブで見られるようなポップアップや歌舞伎のスッポンは人力ですが、このような舞台が大きく早く動く機構は電動ではないでしょうか。何秒で何センチ上がる、とか恐らく細かく設定してると思いますし、舞台を作る上では実際そのように秒単位で演出を設置するのは日常茶飯事です。もちろん機械によって操作限度はありますし、演者の動きに合わせて操作することもありますが。MVなので動かすタイミングは音合わせで打ち合わせていると思います。
- 動く装置は当然危険なので、危険な範囲に人がいないかよく確認して動かします。
特殊効果 チンダル現象
もはや映像技術の話になるのですが。
- シャッフル楽曲『Midnight Butlers』で初実装された、光が差し込んだ時にほこりがキラキラ光る現象。
- 実際の舞台でも見ることができるのでよりリアルな舞台体験になっている。大劇場よりも、小劇場など小さくて客席と舞台の距離が近く照明の数も限られているような空間や、動きな静かな作品だと見られることが多いかと思います。実にこのユニットらしい雰囲気です。
特殊効果 被写界深度
こちらも舞台ではなく映像技術。
- 手前にあるものにピントを合わせて奥のものをぼかす、カメラの撮影技術。手前の人物が際立つので、完全に二人の世界ですね。これも映像だからこそできる画角と絵作りです。
- ちなみに被写界深度の初実装は『月光奇譚』。以降、結構多用されている技術。
特殊効果 スモーク
- MV序盤でも出てきましたが映像としてのスモークなので、好きなタイミングで発生させ、好きなタイミングで消すことが可能。本来の舞台なら瞬間的には消えないし現れない。早く消すには風で吹き飛ばすとか逆算して出す量を変える感じでしょうか。舞台の特殊効果って意外とアナログです。
- 映像のため濃度も変えられ、現実では不可能な出し方ができるのがまたこのMVのよさ。舞台の欲しいところにピンポイントでとどまるスモークを焚くのは現実だとまあまあ無理です。流れていっちゃうので。現実だと劇団四季の『オペラ座の怪人』では水路を往くシーンで舞台をスモークで満たして水路を表現しています。スモークで舞台を満たすためには常にスモークを出し続ける必要がありますが、これはそもそもスモークの機材映ってないのできっとすごい技術力があるんだなぁという想像。
特殊効果 花吹雪(紙吹雪)
- 現実でこれだけの量を降らせろと言われたら嫌になる量。なぜなら機械にだけ頼って紙吹雪を落とさないので。結局は人力で量とか向きとか調整してます。そしてこの量を用意しろと?
- 本来紙吹雪は形によって舞い方、落下速度が異なるが最早そんなの関係ない。映像なので。均一の速度と間隔で舞っています。そしてよく見ると光っている。
- よく見ると様々な方向から舞っているので、花吹雪のレイヤーをいくつか用意しているのかもしれない。客席方向からも舞っているのは、実際にやろうと思ったら客席側に送風機とか置かないと飛んでいかないはずなので、送風機付近の座席は音が聞こえるかもしれない。送風機席とか言われそう。
- カメラアングル的にもキャラの顔にかかることなく花が舞っていますが、現実だと演者の口に入ったり頭に乗ったりしますからね。映像処理的には地味に手が込んでいそうだと思います。知らんけど。
3Dオブジェクト
もはや映像寄りの話。違ってたらすみません。
- 斜めから見ると、プロセニアムアーチから後ろは書き割り背景、手前の花車などは3Dオブジェクトになっている。
- 恐らくこの舞台で1番多い3Dは舞っている分も含めて花ではないでしょうか。
- 3D的には衝突演算(物と物が接触する)が発生するデータが比較的少ない分、物理的には花を大量に設置、背景を移動させても負荷がかかり過ぎないのではないかと。まあ手を合わせている時点でそれなりの演算が人物に発生しているのですけど。華やかな舞台ですが、引くところ引いて盛るところ持ってる足し引きは現実の舞台作りにも通ずるところがあります。
- ちなみに序盤はカフェの椅子とテーブルがありました。転換とともに袖に移動していきます。
映像じゃなかったらこの角度で見られない
劇場の座席配置によっては見えるかもしれませんが、ほぼ斜めなので首が痛くなるお座席ですかね。
終わりに
ざっくりとした説明でしたが、伝わったでしょうか? 各所間違ってたらごめんなさい。
映像なのだからもっと派手にやろうと思えばできるところを、あえて古典的な手法や造形を映像内でわざわざ再現していることに非常にこだわりを感じます。
最近はVR空間設定のMVもありますしね。その逆をいくのがこのユニットの面白いところでもありますし、MV製作陣の実際の舞台の知見の広さも伺い知ることができると思います。
叶うならこの映像担当した方に根掘り葉掘り聞きたいです。
それではここまで読んでくださった方、ありがとうございました。何か考察し甲斐がありそうな3DMVあったら教えてください。
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